敬称に「様」ではなく「さま」を使うべき理由
手紙や年賀状、メール本文の書き出しの宛名で相手が一人である場合、敬称として「様」や「さま」を使うことがある。例えば、「織田様」や「織田さま」といった具合だ。
この宛名の敬称において、漢字の「様」を使うべきか、ひらがなの「さま」を使うべきか悩んだ。調査し検討したところ、以下の結論が得られた。
- 通常の場面ではひらがなの「さま」を使う。
- 公的な場面では漢字の「様」を使う。
以下ではこの理由を説明する。
漢字の「様」にはもともと敬称の意味はない
「様」と「さま」のどちらを使えばいいか調べていると同じ内容の質疑があった。そこでyuhkoh氏による以下の回答があった。
この回答から以下のことがわかる。
- 「様」という漢字にはもともと敬称の意味はなく、たまたま発音が同じであるため一般化した。
- 「共同通信社『記者ハンドブック 新聞用字用語集』第11版」において、敬称にはなるべくひらがなである「さま」が推奨されている。
公用文では「殿」ではなく「様」
昭和27年である1952-04-14に当時の文部省の国語審議会により「これからの敬語」という敬語の指針が出されている。そこで、以下のような指針が示されている。
このことから以下のことが推奨されていることがわかる。
- さま(様)という敬称は、主に手紙の宛名に使う。
- 公用文では「殿」ではなく「様」を敬称として使う。
なお、「これからの敬語」は1952年に出されており、半世紀以上も昔であり有効性が疑われる。しかし、以下でazuki24氏が言及しているとおり、敬語の指針の更新は行われておらず現在も有効のようだ。
結論
以上のことから、冒頭に示した以下の結論が導き出された。
- 通常の場面ではひらがなの「さま」を使う。
- 公的な場面では漢字の「様」を使う。
この結論の理由は以下3点である。
- 「様」という漢字にはもともと敬称の意味はない。
- 「共同通信社『記者ハンドブック 新聞用字用語集』第11版」において、敬称にはなるべくひらがなである「さま」が推奨されている。
- 1952年(昭和27年)の「敬語の指針」において、さま(様)という敬称は、主に手紙の宛名に使い、公用文では「殿」ではなく「様」を敬称として使うことが推奨されている。
個人的にも、敬称としてはひらがなの「さま」のほうがよいと思っている。漢字の「様」を使うことで、文章に漢字が増え以下の欠点がある。
- 文面において黒色の割合が増えて可読性が悪くなる。
- 文章が硬い印象になり読んでいて疲れる。
現実としては手紙やメールの宛名で漢字の「様」が広く使われている。敬称にひらがなの「さま」を用いると、相手によっては幼稚であったり、失礼だと思われるかもしれない。状況に応じて使うのがよいだろう。
しかし、繰り返しになるが漢字の「様」にはもともと敬称の意味はなく、単なる当て字である。これを敬称の意味で用いるのは間違った日本語になりえる。公的な文書を除き、できるかぎりひらがなの「さま」を敬称に用いるべきだろう。
説得力の高い理由
2017-04-11にTogetterのコメント欄で,敬称に「さま」を使ったほうがよいという,より説得力の高い意見をいただいたので紹介する。
確かに,「羽様(はさま)」のように,苗字に様があったり,「大多」のように様をつけると「多様」という別の熟語になってしまい具合が悪い。こうした問題を避ける上でも敬称には漢字の「様」ではなく,ひらがなの「さま」を使ったほうが妥当だろう。
皇族の敬称
TwitterやTogetter,Quoraでも質問があったため,関連する内容として,テレビのテロップなどで天皇などの皇族の敬称に「様」ではなく「さま」と書かれている理由についても紹介しておく。
まず,皇族の正式な敬称としては,天皇系は「陛下」,天皇系以外の皇族は「殿下」と,皇室典範の第四章の第二十三条に記載がある。
また,冒頭で引用した「記者ハンドブック」にも皇室用語の表記方法の記載がある。
「陛下」の敬称は天皇だけに使い,それ以外の皇族の敬称は「さま」を推奨している。
この理由については,Yahoo知恵袋のpro********氏の回答が参考になる。
ニュースなどのメディアでは,親しみを込めてできるだけ「さま」を使う方針のようだ。
発端
敬称の「様」と「さま」のどちらを使うべきかという問題は、もともと2014-04-04に社会人になりたての頃にメールの書き方などの指導に疑問を持ち調べた。そのとき調べた内容はGoogle+に投稿 (リンク切れ) しており、既にそのときにひらがなの「さま」を使うべきという結論で納得していた。
2016-01-01に年賀状がきたため、それに返事を出すために宛名の敬称に「さま」として年賀状を書いた。それを家族にポストへの投函をお願いしたところ、家族全員から敬称にひらがなの「さま」を使っていることに対して批判を受けた。
既に得ていた結論で全ての場合において敬称にはひらがなの「さま」を 使うことが正しいと反論した。すると、納得されず実家の本棚にあった「他人に聞けない文書の書き方―始末書から退職願まで」のp. 52から「これからの敬語」を引用してきて反論された。
「これからの敬語」の存在は知らなかったので勉強になった。
この一連のやりとりはTwitter上で自分一人でなされ、参考になったのでTogetter (敬称の「様」と「さま」はどちらが正しいか? – Togetter) でまとめた。
たまたまトゥギャッターまとめ編集部(@tg_editor)に取り上げられ、比較的多くの人の目につき反響があった。
このような経緯があり、せっかくなのでブログ記事にもきちんとした文章としてまとめておこうと思い投稿した。
Quora (なぜニュースなどの字幕では皇族の方のお名前の後ろに漢字の「様」ではなくひらがなの「さま」なのですか? – Quora) でこの記事が引用されていたため,皇族の敬称について情報を追加し,目次を付けたりした。
会社で年賀状を出す時、例えば「戦国時代株式会社 代表取締役 織田信長さま」(毛筆縦書き)と出すべきってことなんでしょうか。
「さま」で問題ないと思っています。
さまを正当化させる文章だと感じた。
様を正当化させる文章だと感じた
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どちらが読みやすいか?
人の名前の次の様は半角スペースを空けますから
苗字に様が続いてもわかります。
とても読みやすかったです。
私は「様」できたら「様」で返しています(「さま」も同様)。
これからは「さま」に統一しようかな。