書評:ぼくらはそれでも肉を食う―人と動物の奇妙な関係



食肉と菜食主義に関する議論がされている本かと思ったらその話題は後半(p. 200以降)くらいに書かれていた。大部分は動物に対する倫理や道徳に関する話題について触れてそれに関する具体的なエピソードや議論というものだった。動物実験やペットを飼う理由、男女の性による動物への関わりの違いなど広範にわたって取り扱っていた。

いろいろと扱っていたのはよかったが、文章が冗長で論点がわかりづらい箇所があった。著者の研究などを通じたエピソードに基づいて話が展開されており、物語があってそれはそれで面白い。しかし、肝心の問題点と議論の要点とそれに対する反対派と賛成派の意見がわかりにくい箇所があった。図解や箇条書きを駆使してわかりやすくして欲しかった。本の最初にあらすじや概要に該当する箇所がなく、この本全体で取り扱っている内容の全体像と道筋がイマイチよくわからなかった。
基本的には章毎に内容が独立している様子なので、目次をみて気になったテーマだけ読むというスタンスでよい。

個人的にはよく倫理の問題で取り上げられるトロッコ問題(暴走する列車の先には5人の作業員がいて、別のレールには1人の作業員がいる。自分がスイッチを押せばレールを切り替えれば1人は死ぬが、5人は助かるという状況でスイッチを押すかどうか)を動物例に挙げていた話題にはっとさせられた。サンデル教授の白熱教室でもこの問題はよく取り上げられるので知っていたが動物で考えたことはなかった。人と動物、動物と動物、ペットの命の扱いについて考えさせられた。他には以下のようなことが参考になった。
・人間はかわいい動物に価値を置きがち。
・本能で生きている動物に報復することの是非。
・鶏はたくさん殺されるので肉を食べるならくじらのようにできるだけ大きい個体から肉を得るほうが死の苦痛を減らせる。

この手の倫理に関する本にはおそらく共通することだろうが、どの話題にも結論というものはない。そこがはっきりしなくてもやもやが残った。

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