LibreOfficeによる名刺の作成
自分の連絡先を他人と交換する際に,名刺があると便利だ。そこで,自由なオフィススイートであるLibreOfficeで名刺を作ったので,LibreOfficeによる名刺作成方法を記す。
Ubuntu 18.04のLibreOffice 6.0.7.3で動作を確認し,名刺印刷には家庭用のインクジェットプリンターを想定している。
なお,この手順で用意したサンプルの名刺をGitHubで公開している。
概要
名刺作成の基本的な手順は以下となる。
名刺用のデータを用意し,それを名刺用紙用に配置して印刷するという手順だ。2の名刺用紙用へのタイル状配置にあたって,pdfjamを使う方法とLibreOffice Writerを使う方法とで若干手順が異なる。
市販されている名刺用紙をみると,一般的な名刺1枚の寸法は91×55 mmとなっている。また,名刺用紙自体は2×5枚の配置で,余白が縦11 mm, 横14 mmとなっている。
市販されている名刺用紙としては,例えば,以下の「エレコム マルチカード 名刺 1200枚分 10面×120シート マイクロミシン 大増量版 アイボリー MT-JMN1IVZP 」が代表的だろう。こちらは1200枚で2000円程度と1枚あたり2円以下と比較的値段が安い。
1の手順では,この91×55 mmの1枚の名刺データを用意する。2では2×5の名刺用紙に合わせて1の手順で用意した1枚の名刺データをタイル状に配置する。
名刺データの作成
名刺作成において一番重要な名刺データのLibreOfficeでの作成方法を説明する。
なお,LibreOffice Writerには標準で名刺作成機能が備わっている。[File]>[New]>[Business Card]を選択することで,ウィザードが表示され,用紙サイズや情報を入力することで,ある程度自動的に名刺を作成できる。
しかし,この方法では細かい調整が難しい。そのため,代わりにLibreOffice Drawを使って名刺を作成する。手順を以下は以下の通りだ。
1. LibreOffice Drawを起動して作業ファイルを作成する (例: card.odg)。
2. [Format]>[Page Properties…]を選択し,[Page Setup] 画面を開く。
3. [Page] タブの [Paper Format] の以下の項目を名刺サイズに合わせて変更し, [Margins] を全て0にして, [OK] を選択する。
- Width: 9.10 cm
- Height: 5.50 cm
- Orientation: ◎ Landscape
このページ設定により,以下のように名刺サイズのキャンバスができる。
後は,このキャンバス上に名刺に掲載したい情報を入力・配置していく。LibreOffice Drawはページを持つため,1ページ目を表面,2ページ目を裏面にして作成するとよいだろう。
名刺が完成したらファイルに出力する。最終的な名刺用紙用タイル状データの用意にあたって,pdfjamまたはLibreOffice Writerを使う方法がある。それぞれの利点と欠点は以下となる。
項目 | pdfjam | LibreOffice Writer |
---|---|---|
利点 | 画質の劣化を抑制 | 名刺作成をLibreOfficeだけで完結可能 |
欠点 | 外部コマンドが必要でWindows環境では用意が手間 | 若干画質が劣化し,手間が若干増える |
個人的には,画質の劣化を抑制できるためpdfjamを使う方法を推奨する。
手順が若干異なるので,それぞれ解説する。
pdfjamによる名刺用紙データの用意
pdfjamによる名刺用紙データの用意では,PDFファイルを用意してそれをタイル状に結合して実現する。
ファイル出力
LibreOffice DrawからはPDF形式で表面と裏面を別ファイルに出力する。
[File]>[Export as PDF…] を選択して [PDF Options] 画面を表示する。その後,以下の2項目を選択して [Export] を選択する。
- [Range]>[◎Pages:]>[1] or [2]: 表面と裏面を別ファイルに出力するため,出力ページを指定する。
- [Images]>[◎Lossless compression]: 画像の圧縮を控える。
ファイル出力時は, [card.front.pdf], [card.back.pdf] のように表面と裏面が分かるような名前のファイルにするとよい。
なお,プリントトライではLibreOffice Drawの名刺データの入稿を受け付けており,名刺データ作成時の解説があるので,参考にしてもよいかもしれない。
タイル状配置
1枚分の名刺データを用意できたら,今度はこれを名刺用紙用にタイル状に配置する。
用意した1枚分の名刺データはジャストサイズになっているため,これを単純に2×5枚に結合する。PDFファイルの結合にはpdfjamコマンドを使い,以下のコマンドを実行する。
pdfjam --nup 2x5 --noautoscale true -o print.front.pdf $(yes card.front.pdf | head -n 10)
pdfjam --nup 2x5 --noautoscale true -o print.back.pdf $(yes card.back.pdf | head -n 10)
pdfjam -o print.pdf print.front.pdf print.back.pdf
pdfjamによるPDFの結合は「How to merge multiple PDF files onto one page with pdftk? – Super User」を参考にした。
1行目で表面,2行目で裏面の印刷用紙を作成し,3行目で1ファイル (print.pdf) に結合している。
最後の引数で,結合元のファイルを指定している。合計10回指定する必要があるので,yesとheadでファイル名を10回出力させて対応している。
なお,--noautoscale true
のオプションを指定しないと,結合時に勝手に拡縮されてしまい,印刷がずれてしまうので注意する。
これで名刺用紙用データがprint.pdfに出力される。
print.pdfは余白が設定されていないので,印刷時にプリンターの設定で上下中央揃えにしてから印刷する。
LibreOffice Writerによる名刺用紙データの用意
LibreOffice Writerによる名刺用紙データの用意では,ビットマップ形式で用意した名刺データをWriterの背景にタイル状に配置することで実現する。
ファイル出力
LibreOffice Drawで作成した名刺をラスター画像形式 (.png) で表面と裏面とで別ファイルに出力する。
[File]>[Export…]>[Name] 蘭に [card.front.png] を入力>[Save] を選択する。
[PNG Options] 画面が表示されるので,以下の通りに解像度を300 dpiにして [OK] を選択して出力する。
- Width: 9.10 cm
- Height: 5.50 cm
- Resolution: 300 [pixels/inch]
- □ Save transparency
これを表面 ([card.front.png]) と裏面 ([card.back.png]) とで行い,それぞれ別ファイルに出力する。
解像度をちゃんと指定しないと,画質が荒くなってしまうので注意する。また,PNGの場合透明度を残すと,全体的に色が薄くなってしまうので,透明度を保存しないほうがいい。
タイル状配置
LibreOffice Writerを起動し,ファイルを保存 (print.odt) する。
以下の手順で用紙サイズを名刺用紙に合わせる。
1. [File]>[Format]>[Page…] を選択して,[Page Style] 画面を表示する。
2. [Page] タブを選択して,以下のようにページを設定する。
- Paper Format
- Format: A4
- Orientation: Portrait
- Margins
- Left: 1.40 cm
- Right: 1.40 cm
- Top: 1.10 cm
- Bottom: 1.10 cm
3. [Area] タブを以下のように設定して [OK] を選択する。
- [Bitmap]
- [Add/Import] を選択して,事前に出力した [card.front.png] を選択>[Open]
- [Name] 画面が表示されるので, [card.front] を入力>[OK]
- Options
- Style: Tiled
- Position: Top Left
これで表面の名刺をタイル状に配置できる。
続いて,裏面を用意する。裏面の用意では以下の手順で改ページして,ページスタイルを1ページ目から変更する。
- Ctrl+Enter ([Insert]>[Page Break]) で改ページ
- [Format]>[Page…] を選択して [Page Style] 画面を表示する。
- [Organizer] タブで [Next style:] に[First Page] など最初のページと異なるスタイルを選択>[OK] を選択する。
これで2ページ目が1ページ目と異なるページスタイルになる。後は,1ページ目と同様にページ設定を行い,背景画像に [card.back.png] を選択すれば名刺データのタイル状配置が完了となる。
最後に [File]>[Export As]>[Export As PDF…] を選択してPDFに出力して,印刷すれば完了だ。
なお,LibreOffice Writerで背景画像を差し替える場合は,一度 [Area] タブを [None] に変更して保存・終了後,再度ファイルを開き直したほうがいい。こうしないと,背景画像のサイズがおかしくなってしまう。おそらくLibreOfficeのバグだと思う。
結論
LibreOfficeによる名刺の作成方法を記した。
要するに,91×55 mmの名刺1枚のデータを用意して,これを名刺用紙用にタイル状に配置すればいいだけだ。しかし,このタイル状の配置が思っていたよりも厄介で手間がかかった。
LibreOffice Drawでうまいことタイル状にデータを配置できれば,pdfjamやWriterを使わずに実現できるので,改良の余地はまだある。
一度手順を確立してしまえば,肝心の1枚の名刺データの作成に集中できる。今後は名刺データのブラッシュアップに励んでいきたい。