書評☆4 人を助けるとはどういうことか | 支援関係の失敗の原因はワン・アップとワン・ダウンの不均衡の放置

概要

何回かチームで作業することがあり,メンバーの協力をほとんど得ることができず,よい協力関係を築くためにはどうすればいいか悩んでいて読んだ本の1冊だ。

経営学の組織行動論の分野の権威である著者による,協力関係を築くための原則について書かれている。

サブタイトルに「本当の協力関係をつくる7つの原則」と書かれている。この7の原則は第9章にまとめられている。残りの章は,具体例を元にこれらの原則を導き出すためのプロセスがまとめられているように感じた。

この本を読んで一番印象に残ったのは,支援関係で発生する「ワン・アップ」と「ワン・ダウン」の関係から平等な関係に戻し,信頼関係を築くことが重要だということだ。

まず,支援の依頼者と支援者は,依頼者が下手であり支援者は上手の立場に自然となる。依頼者にとっては,支援者頼みになってしまい,問題を自分で考えないということにもなり,支援者は独りよがりな支援になりがちだ。この依頼者と支援者の立場は質問者と回答者という立場にもそのまま当てはまる。一般的には質問者の立場が低く,回答者の立場が高いからだ。

信頼関係が築けなければ,素晴らしい意見を出しても受け入れられない。

そこで,本書では質問を通して依頼者や支援者と必要な情報を交換して,信頼関係を築くことが,協力関係を成功させる上で重要な点とのことだ。

例えば,道を尋ねられたとき,即座に回答せずに目的地はどこかという問いをこちらから一度投げかける。そうすることで,よりよい回答ができる。質問に対して質問で返すというので,マナー的にどうなのかという疑問は感じたが,本質的なところに迫るには必要なことなのだろうと感じた。

質問の仕方としては大きく4種類存在する。

  1. 純粋な問いかけ
  2. 診断的な問いかけ
  3. 対決的な問いかけ
  4. プロセス指向型の問いかけ

この中では特に1.. 純粋な問いかけが重要だ。相手の感情を刺激せず,何があったのか,どうしたのか,どうしたいのかなど淡々と質問する。これにより,不足していた必要な情報を得,また質問により依頼者の立場を高める。これにより信頼関係を構築する。様子を見ながら,残りの質問を行っていく。

その保管も成果を上げるチームワークの作り方など,組織におけるリーダーや幹部にはぜひとも押さえてほしい項目が具体的に書かれていた。

参考

p. 048: 信頼の要素

要するに、信頼には社会経済から由来する二つの要素がある。他人を信じるとは、次の二つを意味する。

  1. その人間との関係の中で、自分がどんな価値を主張しても、理解され、受け入れてもらえること
  2. 相手が自分を利用したり、打ち明けた情報を自分の不利になるように用いたりしないと思うこと

信頼とはどういうことかがわかった。

p. 069: ワン・アップとワン・ダウン

要するに、そもそもどんな支援関係も対等な状態にはない。クライアントは一段低い位置 (ワン・アップ) にいるため、力が弱く、支援者は一段高い位置 (ワン・アップ) にいるため、強力である。支援のプロセスで物事がうまくいかなくなる原因の大半は、当初から存在するこの不均衡を認めず、対処しないせいだ。

これは無意識の内に感じていたが,確かにそうだ。誰かに何かを依頼すると,なんとなくこちらが下手になり,あちらが上手になる。これを放置してしまうことが問題だということに気付かされた。

p. 120: 問いかけの形を選択する

問いかけとは、具体的な行動と同じような態度である。これがどう運ぶかは、実際の状況にかなり左右される。しかし、問いかけの方法が異なれば、結果も異なったものとなる。そこで、支援者を目指す人はどのような問いかけをするかをきちんと選択しなければならない。プロセス.コンサルタントの役割をする支援者でも、その役割をどう演じるかの選択肢がある。次の基本的な四種類に分けて問いかけを考えると、非常に有益だろう。

  1. 純粋な問いかけ – クライアントの話だけに集中するもの
  2. 診断的な問いかけ – 感情や、原因分析、行動の代替案を引き出すもの
  3. 対決的な問いかけ – 現状について支援者自身の見解をもたらすもの
  4. プロセス指向型の問いかけ – クライアントに支援者との即座の相互関係に専念させるもの

支援においては問いかけが極めて重要な役割を果たす。その問いかけの種類と内容,タイミングなどがかなり詳しく書いてあった。ひとまず純粋な問いかけを意識して,信頼関係が構築できてきたら残りの問いかけを行うようなイメージでやれば,よさそうだ。

p. 179: 成果をあげるチームワークの作り方

どんな支援の状況でも、始めのうち、リーダーはプロセス・コンサルタントとして機能しなければならない。そしてメンバーが次の問題について安心感が得られるような状況を作り出すべきである。

  1. 私はどんな人間になればいいのか。このグループでの私の役割は何か。
  2. このグループで、私はどれくらいのコントロール、あるいは影響を及ぼすことになる か 。
  3. このグループで、私は自分の目標、あるいは要求を果たすことができるか。
  4. このグループで、人々はどれくらい親しくなるだろうか。

よいチームワークを構築する上で重要な観点がまとまっていた。

p. 193: フィードバックという支援

まずフィードバックを有益なものとするため、支援関係に不可欠だとして本書で定義された、相互関係のいくつかの基本ルールに従わねばならない。


そうしたフィードバックは次のような条件で、最良の状態で働くだろう。

強要されるのではなく、自ら求めたもので、具体的かつ明確であり、共通の目標に適合していて、評価的なものというよりは説明的なものである場合、ということだ。

チームワークの構築の中でも重要なフィードバックの条件が参考になった。

p. 229: 支援関係における7つの原則とコツ

  1. 与える側も受け入れる側も用意ができているときに、効果的な支援が生じる。
  2. 支援関係が公平なものだとみなされたとき、効果的な支援が産まれる。
  3. 支援者が適切な支援の役割を果たしているとき、支援は効果的に行われる。
  4. あなたの言動の全てが、人間関係の将来を決定づける介入である。
  5. 効果的な支援は純粋な問いかけとともに始まる。
  6. 問題を抱えている当事者はクライアントである。
  7. すべての答えを得ることはできない。

支援関係における原則とコツがまとまっていた。

結論

支援関係を構築する上で重要な情報がまとまっており,よい本だった。理論だけではなく,具体的な事例も豊富に書かれており,実践的だった。

特に,ワン・アップ,ワン・ダウンと質問に関する話がよかった。チームリーダーや幹部となる人には是非呼んでいただきたい。

この手の本だと,ある程度権力のある人にしか実践できなくて意味がないものが多い。しかし,この本の内容は日常生活にも十分活用できる内容となっている。そこがよかった。今後の日々の生活でも謙虚な質問を軸に心がけようと思った。

本書における問いかけ (控えめな問いかけ,謙虚に問いかける) は重要な項目であり,この部分だけを取り扱った「問いかける技術」もこの本の続編的位置づけで出版されている。この本や著者のシャイン先生に興味を持たれたら読むとよいかもしれない。

パーマリンク: https://book.senooken.jp/post/2019/02/25/

コメント

  1. […] 人を助けるとはどういうことか――本当の「協力関係」をつくる7つの原則 […]

  2. […] 100ページと量が少なく,読みやすかった。ただし,これだけだと内容が物足りないので,読んでいなければシャインの本で一番よかった「人を助けるとはどういうことか」も読むことを勧める。 […]

タイトルとURLをコピーしました